非国民生活センター

生活にまつわる怪しい情報と、身を守る知恵をご紹介します。

サイトマップ


TOP>メディアが教えない消費生活入門>水にまつわる迷信

水にまつわる迷信

「水」に関しては、とりわけ魑魅魍魎(ちみもうりょう)がうごめいている世界といえますね。

  • アルカリイオン水は体にいい
  • クラスターの小さい水は健康にいい
  • 磁石で水が活性化し、健康によくなる
  • 水に「波動」を記憶させる
  • 遠赤外線で水がきれいになる
  • 活性水素水
  • πウォーター
  • 還元水でお茶の色が濃くなる

等等。

アルカリイオン水は体をアルカリ性にする!?

食品に関する、なかなか無くならない迷信に「酸性食品とアルカリ性食品」があります。酸性食品を多く摂ると血液のpHが酸性になるからアルカリ性食品を摂ろう、というのと同じノリで、「アルカリイオン水」も喧伝されているのだと思います。

しかし人体は精密に出来ているもので、血液のpHというものは大体7.4くらい、中性よりわずかにアルカリに振れた値に、生理的な緩衝作用で常に一定に保たれているのです。もし酸性に傾くことがあれば、アシドーシスといって、命にかかわる深刻な事態なのです。

もし、空腹時に大量に「アルカリイオン水」を飲めば、胃酸が中和されて感染症のリスクが高くなると考えられますが、それ以上の影響は考えなくてもいいようです。なお、アルカリイオン水の宣伝に関して国民生活センターが商品テストを行って疑問を出したことから、「アルカリイオン水」業界が、「アルカリ」にかわる、なんとなく科学っぽく聞こえる宣伝用語として、還元水とか活性水素水など、別の宣伝用語で言換えるようになったようです。

水のクラスター

「クラスター」とは、ブドウのような房のことで、「クラスターの小さい水」とは、水分子の塊が小さいということですが、実は現時点で「水のクラスター」の大きさを測る方法はないのですね。

「水のクラスター」説が流布するきっかけになったのは、松下和弘氏という人が、NMR(核磁気共鳴)スペクトルという分析機器を使って酸素17の吸収スペクトルを調べ、「長寿村の水」や「天然の湧き水」はスペクトルの幅が小さい、一方水道水はスペクトルの幅が大きい、小さい水はクラスターが小さいと前提して、「クラスターの小さい水は健康にいい」と学会で発表したことが発端でした。松下氏はNMRのメーカーである日本電子の社員でした。これがマスメディアを通して一気に広まったわけです。

ところが、その松下説は否定されました。問題のNMRスペクトルの幅の大小は水のpHに依存する、pH7すなわち中性が最大で、そこから酸性かアルカリ性に振れると小さくなるというものでした。でも、科学的には否定されても、商売の世界では迷信として広まり続けているわけです。

某企業が、億単位の金を出してNMRの装置を買ったけれども、自社の製品の研究開発には全く役に立たない代物だった、近くの貧乏大学(失礼)の研究者にありがたがられているという、何ともトホホな話があります。

水のクラスター -伝搬する誤解-

磁石で水は変わらない

水そのものは反磁性体です。超伝導電磁石のような、物凄く強力な磁石を水に近づけると、モーゼ効果といって(もちろん旧約聖書に由来)、水面はくぼみます。でも、その磁石を離せば、さっぱり元の状態に戻ります。

そんな強力な磁石でなければ、水には何の変化ももたらしません。どこの実験室にもあるであろう、マグネチックスターラーという器具は、磁石の粒を入れてぐりぐり攪拌するものですが、その程度の磁力で水溶液の性質が変わるようなことがあっては実験にはなりませんよね(笑)。

科学の「波動」とオカルトの「波動」

水に限らず、怪しい商売で頻出する単語が「波動」です。物理でいう「波動関数」とか、科学用語にも「波動」という言葉はありますが、それはwaveの訳、ところが、怪しい系の「波動」はvibrationの訳語だそうです。生命力の「エネルギー」などとも言われます。これも、本来のエネルギーとはかけ離れた概念。科学でいう「水のエネルギー」とは、水素原子と酸素原子の結合エネルギーでしかないわけで、「そのエネルギーとは何kJ/molですか?」とでも聞いて、答えられなければインチキと思ってください。

江本勝氏という人が、『水からの伝言』という、「水の結晶写真集」を出しました。水に「ありがとう」という言葉を紙に書いて貼り付ければきれいな結晶が出来て、「ばかやろう」と書いて貼り付ければ汚い結晶が出来た、水の結晶は、言葉の「波動」で出来るというものでした。その「写真」がインパクトを呼んだのか、この本は評判になり、ある教職員の団体が、道徳の授業でこの本を取り上げて波紋を呼びました。

それじゃあ、“SHINE”と書いて貼り付ければ、どんな結晶が出来るのでしょうか。英語では「シャイン(輝く)」、日本語では「死ね」ですね(笑)。水はどちらの意味か判別できるんでしょうか?

「水の結晶」とは、雪や霜と同じように、気相成長で出来たものであり、どんな条件でどのよう形の結晶が出来るかは、「雪は天からの手紙」という言葉を残した中谷宇吉郎が70年以上前に解明し、中谷ダイヤグラムとして世界的に知られています。そうでない、言葉で結晶が出来るというなら、中谷ダイヤグラムをひっくり返すだけの研究をして、一流学術誌に論文を出せばいいわけですが、江本氏はAERAのインタビューで、「水からの伝言はポエムだと思う。科学とは思っていない」と言っています。それならば、はっきり「呪術である」と開き直ればいいと思うわけですが、何故か、科学っぽさを装いたいようです。江本氏は、「(株)I.H.M.」の代表で、その会社のサイトでは、「波動と水を科学する」と謳っちゃっているし、「波動機器」なるものを扱っています。水の結晶にまつわる著作も、波動ビジネスの一環なのです。『水からの伝言』をはじめとしたニセ科学の問題に取り組んでいる菊池誠・大阪大学教授の講演で、江本氏らが作ったPRビデオを見せられたのですが、白衣を着た研究者らしき人物や、「波動測定器」の操作パネルが出てきて、明らかに科学っぽいイメージを狙っているものでした。 菊池氏によると、この種の「波動測定器」と称するものの正体は、測定者自身の電気抵抗を測っているもので、嘘発見器の類だということです。

「水からの伝言」を信じないでください(田崎晴明・学習院大学教授)

遠赤外線

「遠赤外線」も、水に限らずよく出てくる言葉ですが、どんな物も、その温度に応じて赤外線や遠赤外線を出している、それだけのことです。

活性水素水

「活性水素」とは、水素原子2個がくっついた水素分子(H2)ではない単原子の水素だそうで、有害な「活性酸素」を無害化するという触れ込みで、白畑實隆・九州大学教授が低唱しています。でも現実には単原子水素は安定には存在しえない、安定に存在できるのはH2分子なわけです。水素の単体、すなわち水素ガスは爆発しやすくおっかないもので、水素爆発は理科の実験で一番多い事故のようです。

πウォーター

円周率のπにも通じる、「何だか科学的そうな」雰囲気の名前ですね。鉄の2価と3価の塩の複合体が超微量含まれている水だそうです。πウォーターだと、「タイとコイが同じ水槽で飼える」のだそうですが、別にπウォーターではくても、魚の生理食塩水を作れば、海水魚と淡水魚を同じ水槽で飼うことが出来ます。 これを喧伝したのは、名古屋大学の助手だった山下昭治氏ですが、この2価3価鉄塩の濃度は日本では測れない、ということでした。それならばアメリカに測れる機器があるから測りに行こうじゃないかと糸川英夫氏から誘われたのですが、当の山下氏は逃げてしまいましたとさ。

お茶の色

別に還元水でなくても、アルカリ性にすればお茶の色は濃くなります。

この種の水ビジネスに関しては、天羽優子・山形大学准教授のサイト「水商売ウォッチング」が非常に詳しいので、是非ご一読ください。

ページトップへ
Copyright(C) 2010 Consumer Affairs Center of Perversity All Rights Reserved
inserted by FC2 system